飛行機の翼の先はなぜ曲がっている?ウイングレットを見る
窓の外で、翼の先だけが空へ立ち上がっている。小さな部品に見えても、飛び方に理由があります。 ウイングレットは翼端付近の空気の流れを変え、揚力を生むときの抵抗を減らすための工夫です。 渦を完全に消すわけではなく、効果は主翼の形や飛ぶ条件との組合せで決まります。
次に見るなら、翼とのつながりを
搭乗する機体の翼が見えたら、まず先端の形を一つだけ覚えてみてください。角を作って立つもの、なめらかに上へ曲がるもの、上下へ分かれるもの。目に入るのは、小さな垂直の板だけとは限りません。
注目したいのは、主翼から先端へどうつながるかです。細い部分を突然折り曲げたように見えるのか、広いカーブを描いているのか。その違いは飾りの好みだけでなく、翼全体と空気の流れを合わせる設計に関わります。
形だけで機種や燃費を言い当てる必要はありません。窓からの観察でわかるのは外形まで。「なぜここに、この面があるのだろう」と考えるだけで、いつもの景色に仕組みが見えてきます。NASA Glennのウイングレット解説
翼の端では、空気が横にも回り込む
飛行中の翼は、周囲の空気を曲げ、その流れと圧力分布によって機体を支える揚力を生みます。揚力を出している典型的な翼では、上側の圧力が下側より低くなっています。
翼が横へ無限に続けば、端はありません。実際の翼には終わりがあるので、その付近では下側から上側へ回り込む流れが生じます。空気は前から後ろへ進むだけでなく、横や上下にも動くのです。
翼の後方では、こうした流れが巻き上がって渦を作ります。左右の翼端付近から続く渦は、互いに逆向きに回ります。渦は透明な空気の動きなので、いつでも白い筋になって見えるわけではありません。NASAの翼端付近の流れの説明
ここでは「空気が先端の角に引っかかる」と考えるより、翼が揚力を生むとき、周りの空気全体に三次元の動きができる、と捉える方が近くなります。翼端の形は、その全体の流れを変える手がかりなのです。
浮くために生まれる抵抗がある
翼の後ろの流れには、下向きの成分ができます。この下向きの流れの影響で、翼に働く空気力には、飛行方向と反対向きの成分が加わります。これが「誘導抗力」と呼ばれる抵抗です。
抗力には、表面の摩擦など別の成分もあります。ウイングレットの記事で言う「抵抗を減らす」は、とくに揚力に伴うこの成分を減らす話です。誘導抗力の減少率が、そのまま機体全体の抗力や燃料消費の減少率になるわけではありません。
上の二つの図は、先端付近の流れを考えるための模式図です。ウイングレット付きにも曲がった流れを残しています。下の力の図は、上向きの支えと後ろ向きの抵抗を分けて示すもので、実測した力や渦の大きさの比較ではありません。
飛行機が空気を動かすにはエネルギーが要ります。同じように機体を支えながら、そのために生じる余分な抵抗を減らせれば、飛行に必要な仕事を減らせます。翼端の小さな形は、その効率に関わっているのです。
小さな翼を、主翼と一緒に働かせる
ウイングレット自体も、空気の流れを受けて力を生む小さな翼です。角度、高さ、断面、主翼への接続を調整して、翼端付近の流れや揚力の分布を変えます。単に高い壁を立てて、空気を完全にせき止める仕組みではありません。
適切に組み込まれたウイングレットは誘導抗力を減らせますが、飛んでいる機体の後ろの渦がゼロになるわけではありません。「付いていれば後方の空気は乱れない」という見方もできません。
この設計には、見える先端だけでなく主翼全体が関わります。NASAの初期研究でも、空力の変化に加え、翼にかかる力や曲げの負荷を調べ、翼を横へ延ばす案と比較しています。Whitcombによる1976年の研究概要
紙飛行機の端を折ってみる遊びはできますが、その結果を旅客機の燃費の証拠にはできません。大きさ、速さ、重さ、形が異なるうえ、折り方で安定性まで変わるからです。
横に長い翼にしないのはなぜ?
同じ翼面積などの条件で考えると、細長い翼は誘導抗力を小さくする方向に働きます。それなら主翼を横へ延ばせばよさそうですが、翼幅には空港の駐機場所などの制約があります。延長した部分を支える構造も必要です。
ウイングレットは、翼幅を大きく増やしにくい場面で検討される選択肢です。ただし、部品と補強の重さ、表面が増えることによる抵抗、翼の曲げ荷重なども一緒に評価します。足せば必ず得をする装備ではありません。翼幅と構造の制約を紹介するNASAの記事
さらに、設計する飛行条件や運航の仕方によって、得られる効果の重みは変わります。離着陸を含めた一便でどれだけ燃料が変わるかを見るには、翼端以外の条件もそろえる必要があります。ある機体の試験値を、別の機体の短い便へそのまま当てはめることはできません。
付いていない翼も、全体を見て考える
先端が上へ立ち上がっていない翼にも、長さや平面形、先端の形に工夫があります。ウイングレットの有無だけで、新しいか古いか、優れているかを並べることはできません。必要な性能と制約を、別の組合せで満たしている可能性があります。
NASAが紹介する1979年開始のKC-135での飛行試験は、ウイングレットの有効性を示した研究の一つです。ただし、その特定の機体と試験の成果を「どの旅客機も同じ割合で省燃費」と読むのは行き過ぎです。本稿では共通の改善率を置いていません。NASAの飛行試験の歴史
次に翼を見たときは、先端の形から、透明な空気の動きを想像してみてください。上へ伸びるあの部分は、翼が空気を下へ動かして機体を支える、その仕事を少し効率よくするために形づくられています。